乳がんの手術
基本的に乳がんの治療は、乳房内のがんを取り除く外科手術を行います。
手術には、「乳房温存手術」と「乳房切除術」があり、現在は「乳房温存手術」が、施設にもよりますが60%程度と言われています。
乳房温存手術は、がんが存在する部分だけ切除する手法で、元の乳房の形をできるだけ残せるようにします。
乳房切除術は、乳房全体を取り除く手法です。がんが大きく広がっていて、乳房を部分的に残すことが難しい場合に行われます。
どちらを行うかは、がんの広がりなどの状態によって決定します。現在はどちらの手術を行った場合でも予後(乳がんで亡くなるかどうか)にほとんど差がないことがわかっているため、乳房温存手術が可能な場合にはそちらを選択することが一般的です。
また、乳房切除術には、再建を行う場合と行わない場合があります。乳房再建を行う場合、患者さんご自身の組織、または人工物を使って乳房を再建することも可能です。がんの手術と同時に行う場合と、あとから再建する方法があります。
乳房温存手術
手術では、がんの広がりを正確に把握して取り残しのないように切除する必要があるため、手術中に組織診(術中迅速病理診断)を行って慎重に確認しながらがんを切除していきます。その上で、整容的にも満足できるように乳房をできるだけ残す方向で配慮しながら手術を行っていきます。
また、乳房温存手術の術後には、残った乳房に放射線療法を行います。
乳房温存手術が可能になる条件
乳房温存手術を行うことができるのは、原則、下記の条件を満たしているケースですが、乳房全体とがんの広がり具合の兼ね合いで決まります。
- しこりが直径3cm以下
- 乳腺の中にがんが大きく広がっていない
- 乳腺以外の組織にがんが転移していない
- 原則として、術後に乳房に放射線療法を行える
放射線治療ができないケース
- 重い膠原病がある
- 妊娠中である
- 過去、同じ部位に放射線療法を受けた
乳房切除術
乳房をすべて切除するため、術後は乳房がなくなって、胸のふくらみも失われます。がんの状態によって切除する部分に違いが生じることもあります。乳頭、乳輪、皮膚を残せるケースがある反面、乳房だけでなく脇の下のリンパ節や一部の皮膚や筋肉も切除する必要が出てくる場合もあります。
乳房再建
ご自身の組織や人工物を用いて失われた乳房を形成外科技術によって再建するものです。なお、放射線治療を受けた後は、皮膚の伸びが悪くなるため人工物による乳房再建が困難になる場合があります。
自家組織(じかそしき)を使った乳房再建
患者さんご自身のお腹や背中などから採取した筋肉と脂肪組織を使って行います。
人工物を使った乳房再建
人工物であるシリコンインプラントを使って行います。
時期による乳房再建の分類
乳房再建は、行う時期や手術回数によって下記のように分類されています。
分類 | 特徴 | |
---|---|---|
時期 | 一次再建 | 乳がん手術と同時に行う乳房再建 |
二次再建 | 乳がん手術後、数ヵ月以上経過してから行う乳房再建 | |
手術の回数 | 一期再建 | 1回の乳房再建手術で終了 |
二期再建 | 2回に分けて再建手術を実施。 1回目には、エキスパンダーという袋を挿入します。挿入された袋によって皮膚が十分に伸びてから2回目の手術で自家組織や人工物に入れ替えます。 |
※横スクロールで全体を表示します。
原則は、乳がんの切除とエキスパンダー留置、8ヶ月後にインプラントを留置する乳房再建(一次二期再建)が安全にバランスの良い乳房を得られるベストな方法です。患者さんの状態などによって乳房再建の手術時期や回数は異なります。再建を検討される場合には、医師とじっくり相談してから決めるようにしてください。
センチネルリンパ節生検
センチネルリンパ節生検は、脇の下のリンパ節にがんの転移があるかどうかを判断するために行う検査です。センチネルには「見張り役」という意味があります。
この検査は、乳輪の皮膚へ目印として微量の放射性同位元素(アイソトープ)や人体に無害な色素液を注射して行います。この目印がたどり着いた数個のセンチネルリンパ節を小さな皮膚切開で摘出し、転移があるかどうかを調べます。乳房温存手術、乳房切除手術いずれにも行われ、摘出したセンチネルリンパ節にがん細胞が発見されなければ、それ以上遠くに存在するリンパ節への転移がないと判断できます。もしセンチネルリンパ節にがん細胞が発見された場合には、脇の下のリンパ節をすべて切除する腋窩リンパ節郭清を行います。
腋窩リンパ節郭清(えきかリンパせつかくせい)
腋窩リンパ節は脇の下にあるリンパ節のことです。郭清はすべてを取り除くことですから、脇の下のリンパ節をきれいに取り除く手術が腋窩リンパ節郭清です。脇の下のリンパ節は脂肪に埋もれるようにあるため、脂肪も含めて取り除きます。手術前の検査で腋窩リンパ節への転移が認められる場合や、手術中のセンチネルリンパ節生検によって転移が発見された場合に行うことがあります。
合併症として、腕を上げにくい、しびれ・むくみといった症状が現れることがあるなど負担が大きい手術ですから、負担の少ないセンチネルリンパ節生検による慎重な見極めが重要です。センチネルリンパ節生検により転移が発見された場合でも、腋窩リンパ節郭清を行わないことがあり、その場合には術後に脇の下への放射線治療を行います。
なお、腋窩リンパ節転移はレベルⅠ・Ⅱ・Ⅲに分類されます。進行は転移しやすいレベルⅠからⅡ・Ⅲへ進んでいくとされています。レベルⅠは脇の下に近い部分、Ⅱは小胸筋の後ろや大胸筋と小胸筋の間、Ⅲは鎖骨に近い部分です。レベルⅢまで郭清することは、現在ではほぼありません。